初めて見た時は子どもだったので、ストーリーよりも、竹中直人さん演じる青木さんの動きの滑稽さや、渡辺えり子さん演じる豊子さんのドレスが破れてしまうハプニング、ダンスの動きに合わせてヒラヒラと動くスカートの美しさなど、印象的なシーンだけ覚えていたのですが、大人になってから、なんとなく見てみたら、自分でも驚くほど大感動してしまいました。
感動といっても大爆笑や大号泣とか、悪を駆逐する正義の完全勝利とか、そういう白か黒かの派手な演出でスカッとしたというのではなく、見ているうちに積もっていく複雑で小さな感心で最後には満たされている、という感覚でした。
まず、役所広司さん演じる主人公の杉山さんの哀愁に惹かれます。
平成初期の頃、毎日スーツに袖を通し、会社でサラリーマンとして昇進していきながら庭付きの家と家族をもち、不満があるわけではないのにどこか刺激がなく、でも大人しい性格で日々慎ましく生活している姿は、その時代の懐かしさも感じ、正しいとされるレールを走る少しの自負と保守的な姿勢、それで自分はこのまま年をとっていくのだろうかという漠然とした危機感と寂しさなど、大人の複雑さも感じさせます。
家で気ままに振る舞う思春期の娘が対照的で、杉山さんを際立たせます。
そんなある日、ダンス教室の窓辺に立つ美しい舞先生を電車から見かけてしまうという、この物語のスタートにはワクワクします。
社交ダンスを踊る草刈民代さんのピンとのびた背筋と優雅な動き。
こんな美貌をもっていて、ダンスがうまいのに、舞先生はなぜつまらなさそうにツンケンしているの?と、杉山さんと一緒に、見ている側も興味をもってしまうはずです。
憧れの舞先生の他にも、本人は熱いつもりがファニーな役回りの、ラテンダンス青木さんと、愚痴っぽくいつも文句たらたらのおばちゃん、豊子さん。
みんなを優しくお茶目に見守るたま子先生もいて、ダンス教室に行けば開けている新しい世界を手に入れた杉山さんの毎日は軽快に色づいていきます。
物語の中盤では、ダンス教室が充実していく一方、帰りが遅く女性物の香水の匂いがすることから、杉山さんの奥さんが疑念を抱いて浮気調査したり(その誤解は後で解けますが)、実は同じ会社に勤務していた青木さんが会社ではのけものにされていることが見えてきたり、パワフルな豊子さんの抱える家庭の事情を知っていったり、楽しいだけのことなんてないという現実を突きつけられ、ハッとなる場面も出てきます。
それと共に明かされていく、舞先生の過去のトラウマ。
怒りと悲しみで前に進めなくなっていたプライドも技術も高い彼女が、不器用なビギナー杉山さんの誠実さと、素人でありながらいろいろな事情をダンスに昇華させようとする青木さん・豊子さんを通して、再びダンスと自分自身の価値に目を向け始めます。
しかし、肝心の杉山さんは、豊子さんと出場した大会でのアクシデントと、奥さんと娘に何もかもバレてしまったことですっかり意欲をなくしてしまい、教室にも顔を出さなくなります。
この時の杉山さんの心情を想像すると悲しすぎます。
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