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「Shall we ダンス?」

桜の木の前で笑っている女性

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舞先生を窓辺に見かけたあの日の偶然、自分のちょっとした勇気、社交ダンスという自分でも初められることだっためぐり合わせ、会社と家庭以外に見つけたやりがいのある趣味、おもしろい仲間、謎めいた舞先生への淡い恋心と徐々に氷解していくヒリヒリへの期待…。
絶妙なバランスで成り立っていた繊細で大切な世界が一瞬で全部ぶち壊しになってしまったのです。
誰も何も悪くないのに、もう元に戻らない儚さに心臓を鷲づかみにされた思いがする局面です。
無理やり無かったことにして日常に戻る杉山さんは潔いのかやけくそなのか、ただただ切ない。
その気持ちは画面越しに痛いほど伝わってきます。
けれど物語は杉山さんを放っておきません。
心配した青木さんと豊子さんが家に訪ねてきて彼を励まし、ついに舞先生が海外で社交ダンスに再挑戦する決意をしたこと、そのお別れパーティーをやることを知らせてくれます。
せっかく離れようとしたのだからと、見て見ぬ振りしようとする杉山さんですが、ダンスをしている姿が格好良かったと娘にも励まされ、刺激のないはずだった自宅の庭で奥さんとステップを踏むだけのダンスを踊り、二人からパーティーに行くよう背中を押されます。
それでもまだ迷ったままパーティーの当日、仕事の帰路、そのまま帰宅するつもりでいたのに、つい癖で見上げたダンス教室の窓には自分へのメッセージがあり、急いで駆けつけた会場では、待っていた舞先生が聞くのです。
「Shall we ダンス?」。
踊る二人に合わせて主題歌の「シャル・ウィ・ダンス」が流れ出し、思わず泣いてしまいます。
全てを自分の記憶の底に押し込んで無かったことにしなくてもよかったのです。
好奇心と勇気を振り絞ってダンス教室に踏み入れた彼の一歩に影響をうけて前進した仲間たちと、舞先生と、家族が、今度は彼の前進を助けました。
あの日電車から見上げた窓から、全てそこに繋がっていく、その時間を杉山さんと体験した、エンドロールの時はそんな気持ちです。
全て見終わってみると、詳細は覚えていなかったものの、公開当時に映画を見た私も杉山さんに影響を受けたひとりで、社交ダンスを数年習っていたことを思い出しました。
途中でバレエに興味が移ったため、今では最初からバレエファンのように人に話すことが多く忘れていましたが、ダンスへの興味は、この映画がきっかけでした。
草刈民代さんはバレリーナですよね。それを思うと、草刈さんの演じる舞先生に憧れたひとりでもあるのかもしれません。
この映画を見ていると、平成の空気感、LEDの無い陰影のある風景、スマホのない時代の人間同士の交流が、たまらなく恋しくなります。
登場人物たちがそれぞれ抱える背景と葛藤、お互いにどう見えているのか、そのすれ違い、でも誰かの行動で何かが動き、少しずつ日常がつくられていく。
人間が人間に感心があり、何か遠く感じるものに憧れを抱いたりすることのエネルギーや尊さを思い出させてくれる、そんな作品です。

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